海外個人開発者にフォーカスするこのニュースレター。

今回紹介するのは「Nicolai Klemke（ニコライ・クレムケ）氏」！

物理学のPhD（博士課程）を取得した後に研究の道ではなくてAIサービス開発の道に進んだ男。

そして見事サービスを2023年10月時点で$17k(約270万円)/月もの収益をあげるプロダクトに成長させた。現在はもっと収益をあげているはず。

なぜ彼は研究の道からサービス開発の道に移ったのだろう？そんな彼にフォーカスして見ていこう！

彼はドイツ出身。大学で物理学を研究しながらも副業で音楽活動をしていた。

物理学が嫌いなわけではなかったが、どちらかというと音楽に精を出していたらしい。

そしてそのまま修士課程を修了して、この先どうするか悩むことになる。

音楽は好きだけどフルベットする勇気はない。

いくつかの仕事に応募してみたけどどれも魅力的ではない。

そこで、とりあえず博士課程に進み音楽と両立させる道を選ぶのだ。

僕も修士課程を出ているが周りの友人で博士課程まで進む人はほぼいなかった。博士過程に進む人は一握りで本当に研究が大好きで将来は教授を目指している人がほとんど。

そんな中ニコライ氏は根っからの研究好きだったわけではなくどちらかというと消極的な理由で研究の道を選んでいることが分かる。

そして博士課程で研究を重ねるにつれてあることに気付く。

”物理学への情熱はそれほどないが、物理学実験のシミュレーションでプログラミングをしている時はめちゃくちゃ楽しい”

当時2019年、ChatGPT登場の3年ほど前であるが水面下で様々なディープラーニングの研究が発表されていた。

彼はこれらディープラーニングの世界にどっぷりハマっていくことになる。

物理学とAIは共通項も多く、物理学専攻の学生がデータサイエンティストやAIエンジニアになることも多い。

ニコライ氏の場合も物理学研究からAIの世界へ・・・。

🪐博士課程修了後は画像解析の会社に就職するもすぐに辞めて起業の道へ

プログラミングそしてAIの世界にどっぷり浸かるようになった彼は、博士課程修了後はディープラーニングの技術を使った画像解析の会社に就職して研究開発に励むことになる。

しかし思ったよりも退屈で、1年とちょっとで会社を辞めてしまうのだ。

そしてニコライ氏は会社を辞めた後、心機一転「Entrepreneur First」というスタートアップ育成プログラムに参加する。

Entrepreneur Firstは世界中に存在するスタートアップ育成プログラムで、彼はベルリンのプログラムに参加。

参加者は3ヶ月間かけて同じプログラムに参加している仲間と一緒にアイデアをブラッシュアップして初期開発し最終的に投資家に向けてピッチを行う。

見事投資を受けることができればスタートアップとして立ち上がる！投資金額はなんと8万ポンド（約1600万）にのぼるという。

しかし、残念ながらニコライ氏は最終的に投資を受けるまでは至らなかった。

🪂スタートアップ育成プログラムを終えStable Diffusionと出会う

プログラムに参加して様々な知識や経験を得た彼だが、結局投資を受けることはできず、手元には何のプロダクトもない。

そんな2022年12月、彼はStable Diffusionという画像生成AIと出会う。

Stable Diffusionについて知っている人は多いと思うが、簡単に説明しておこう。

画像生成系AIには、他にもいくつかMidjourneyやDALL･Eなどが存在するが、Stable Diffusionの特徴はオープンソースであること。

Stable Diffusionであればオープンソースのコードを使って自分のマシンで画像生成ができるのだ。

そして実はStable Diffusionはニコライ氏の生まれであるドイツのミュンヘン大学のグループが開発したモデル。

Stable Diffusionの仕組みについて詳しくは僕のブログメディアで取り上げているので興味のある人は見てみて欲しい

そんなStable Diffusionに彼は夢中になった。

そして彼はStable Diffusionを使ったプロダクト開発に挑戦することを決意する。

ドイツの真冬を7週間ほどプログラミング漬けの日々で過ごしたらしい。

彼は元々研究などで使っていたPythonは使えたが、Web開発自体は初めての挑戦。

データベース構築もユーザー認証もサーバーの構築もはじめての経験だったが、理解が不十分でもとにかく早く作ることを目標に試行錯誤しながら頑張った。

当時ちょうどChatGPTが登場した時期で、ChatGPTに聞きながらなんとかプロトタイプを作ることが出来たという。

このようにアイデアと熱意はあるけどWeb開発の経験がない人に対してChaGPTは強力な武器を授けることになったと思う。

Stable Diffusionと出会ってわずか2ヶ月後の2023年1月、彼はStable Diffusionを使ったサービス「

」の初期バージョンをリリースした。

Neural framesはテキストから動画を生成するWebサービス。

このテキストから動画を生成する仕組みがシンプルだが画期的。

以下のようにテキストプロンプトと元の画像をStable Diffusionに入れる処理をループするというテクニックで構築されている。

この工程で生み出された画像を繋げていくと動画が出来上がる。

新たに「テキストから動画を生み出せるモデル」を開発したのではなくて、既存の画像生成系AIを使って大量の画像を生み出し、それらをつなげることで動画にしているというのがミソだ。

以下のYoutubeで、どんな動画が生み出されるのか紹介している。

価格は、動画の尺や使えるモデルやダウンロードできる動画の質などによってプランが分かれている。

freeプランもあるがfreeプランだと生成できる動画が10秒以内になっているので本格的に使おうとすると有料プランを使う必要が出てくる。

さて、サービスをリリースしたニコライ氏はこれを海外の掲示板サービスとして有名なRedditと、IT系のネタを告知するサービスとして有名なHackerNewsに投稿する。

この投稿で多くの反響を得ることができた彼は、

このプロダクトは需要がある！いける！

この初期バージョンのリリースで、なんといきなり月400$(6万円)の収益に達する。

サービスなんてリリースしても見向きもしてもらえないことばかり。たった400$でもめちゃくちゃスゴイ。

📕マーケティングの重要性に気付いて色々試行錯誤

しかし、一過性のバズで終わってしまってはサービスは成長しない。

ニコライ氏は他の成功している開発者と同じくマーケティングの重要性に気付いて色々と試行錯誤をはじめる。

彼は様々なマーケティングを試した。

彼はTwitterのフォロワーが現在1000人でそこまで多いわけではない。他のチャネルにおいても特段大きな影響力を持っているわけではない。

これまで紹介してきた開発者はTwitterやYoutubeにて10万人を超えるフォロワー・登録者を持っていてその影響力を軸にプロダクトを拡販しているケースが多かった。

しかしニコライ氏の場合はそうではない。

こんな感じで手数をたくさん打って大きなムーブメントを作っていたのだ。

正直思いつくことはとにかく色々やってみることが大事。上手くいかないかも・・・と足踏みしているならとりあえずやってみることが大事なのだ。

ちなみに途中で「音楽に合わせた動画を作りたい！」という需要があることに気付き、サービスの作りを変えている。

多くのミュージシャンがNeural framesを使って音楽にあわせた動画を生成してそれをSNSにポストして広めてくれているという。

音楽活動を大学時代にやっていたことが地味にここにつながっているのだ。

顧客の声を聞き、一番刺さっている価値はなにかを見極めてプロダクトの機能を尖らせていくのが非常に大事なのだと痛感する。

こうして、Neural framesは2023年10月、リリースしてからたった10ヶ月で$17k(約270万円)/月もの収益を上げるに至ったのだ！凄まじい。

さて、ある程度までスケールしてきたNeural frames。この後の展望はどのようなものがあるのだろう？

このサービスはStable Diffusionを酷使することになる。そのためものすごくマシンパワーを使う。なんとクラウドの利用料が月$7k(約100万円)ほどもあるそう。

この費用をどうにかして最適化できないかを考えていく必要があるとニコライ氏は言う。

また、OpenAIがデモ公開したテキストから動画を生成するAI「

」の登場で今後Neural framesの牙城が崩されてしまうかもしれない。

あきらかにSoraとNeural framesではSoraの方がクオリティが高い。

実はCNNを考案したことで有名なAIの大家であるヤン・ルカン氏が、Soraが登場する直前にtext to videoの領域はまだまだ難しいよーとカンファレンスで喋っていた。

そんな矢先にSoraが登場したのだ。AIの進化は凄まじく専門家でも予想がつかない。

まだSoraは一般公開されていないが、今後このtext to videoの領域がどうなっていくのか見ものである。

ただニコライ氏はneural framesがどうなろうとも大丈夫と言う。

以下はニコライ氏の発言の引用だ。

"If neural frames were over tomorrow I still would have learned more this year than in the previous 5 probably and would never regret it."

仮にneural framesが明日終わろうとも、この1年間で学んだことはその前の5年で学んだことよりもずっと多く、後悔することはないだろう

サービスを作って挑戦して失敗してもそこから学べることは圧倒的に大きい。何もしないよりも圧倒的に濃い学びが得られるのだ。

AI領域のサービス開発はニコライ氏のように短期間でものすごい収益を生める可能性を秘めているが、その分一気にその牙城が崩される可能性も高い。

進化の激しい世界ではプレイヤーがどんどん入れ替わる。ハイリスク・ハイリターンの世界だ。

読んでる間、ずっとSoraのことが気になって仕方がなかったです。
でもニコライ氏のSoraに対する考え方はさすがに起業家って感じですね！

Sora来たら終わりですよね・・・笑
ニコライ氏みたいな気概を持って挑戦してる起業家カッコいいでっす！